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EUローミング完全ガイド — Roam Like at Home(RLAH)の仕組みと対象国

EU域内を旅行または移動する際に知っておくべき通信規制が「RLAH(Roam Like at Home)」である。EU/EEAのキャリアと契約した加入者がEU/EEA圏内をローミングしても追加料金を取られないことを原則として定めた規制だ。

この記事の要点:

  • RLAHは2017年6月15日施行・EU 2022/612で2032年6月30日まで延長
  • 対象はEU/EEAの30カ国 + 2026年1月1日よりウクライナ・モルドバの計32カ国。スイス・英国・モナコ・バチカンは対象外
  • 日本のキャリアSIMはこの規制の直接の対象外——日本人渡航者は旅行eSIMで対応するのが現実的

他の海外通信手段との全体比較は海外でスマホを使う4つの方法で解説している。国際ローミングの仕組みについては国際ローミングの仕組みと料金を参照してほしい。


1. RLAH(Roam Like at Home)とは

RLAHとは、EU/EEAの通信事業者が加入者に対してEU/EEA圏内のローミングに追加料金を課すことを原則として禁止するEU規制の通称である。

正式な法的基盤はRegulation (EU) 531/2012(ローミング規則)を起点とし、2015年のRegulation (EU) 2015/2120、2017年のRegulation (EU) 2017/920による改正を経て、2017年6月15日に「小売ローミング追加料金の撤廃」が実現した。この日付がRLAH施行日として広く知られている。

その後、Regulation (EU) 2022/612(2022年4月13日発効・同年7月1日適用開始)によりさらなる強化と期間延長が行われた。主な追加内容は以下のとおりである:

  • RLAHの適用期限を2032年6月30日まで延長
  • 卸売ローミング上限価格の段階的な引き下げ
  • 品質保証の追加(同等ネットワーク利用時に国内同等の速度・品質を保証)
  • 緊急サービスへのアクセス改善

規制の主な受益者は、EU/EEAに加盟する国のキャリアと契約している加入者である。


2. RLAHの対象国・対象外の国

対象国(32カ国)

RLAHが適用されるのは以下の32カ国である。

EU加盟27カ国: オーストリア、ベルギー、ブルガリア、クロアチア、キプロス、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン

EEA非EU加盟3カ国: アイスランド、ノルウェー、リヒテンシュタイン

2026年1月1日より追加(EU Council 2025年7月25日採択): ウクライナ、モルドバ

ウクライナとモルドバは、EU/EEA非加盟国としては初めてRLAHエリアに統合された国となる。EU Councilが2025年7月25日に採択した決定により、2026年1月1日から正式に加入している(EU Council プレスリリース)。

これらの国のいずれかのキャリアと契約していれば、残り31カ国を旅行・移動する際に自国と同じ料金水準でサービスが利用できる(公正利用ポリシーの範囲内で)。

対象外の国(注意が必要)

以下の国・地域はEU/EEAに属していないため、RLAH規制の対象外となる:

国・地域理由
スイスEEA非加盟(1992年国民投票で否決)。独自の通信規制を持つ
英国EU脱退(Brexit)。2020年以降はEU/EEAに属さない
モナコEU加盟国でない(フランスと特別協定)
バチカン市国EU加盟国でない
アンドラEU/EEAに属さない
サンマリノEU/EEAに属さない

スイスはEEA非加盟のため、EU/EEAのキャリアSIMを持ちフランスやイタリアでRLAHを活用できている人でも、スイスに入国した時点でローミング追加料金が発生する可能性がある。欧州旅行でスイスを含む旅程を組む際には特に注意が必要だ。

英国については、Brexit以前(2020年末まで)は英国もRLAHの恩恵を受けていたが、現在は英国のキャリアがそれぞれ独自のEUローミングポリシーを定めている。英国キャリアSIMでEU圏内を旅行する場合は各キャリアの最新ポリシーを確認する必要がある。


3. RLAHが適用される契約

RLAHはすべてのモバイルサービス利用者を対象とするわけではない。以下の条件を満たす契約に適用される。

適用の前提条件

  1. EU/EEAに属するキャリアとの契約:EU/EEAの通信事業者(MNOまたはMVNO)と契約していること
  2. 自国(ホーム国)での定常的な利用:RLAH規制は「自国に住み、そこを中心に生活している人がEU/EEA圏内を旅行する」ことを前提としている

MVNOにも適用される

EU/EEAの規制は大手キャリア(MNO)だけでなく、仮想移動体通信事業者(MVNO)にも適用される。EU/EEA域内のMVNOと契約している場合も、RLAH規制の対象となる。MNOとMVNOの違いについては国内SIM・MVNO関連のガイドで確認できる。

プリペイドSIMにも適用される

ポストペイド(月額契約)だけでなく、プリペイドSIMにも原則としてRLAHが適用される。ただしプリペイドSIMの場合、残高の扱いや速度制限のポリシーはキャリアにより異なる。

対象外の契約

  • 日本のキャリアSIM:日本の通信事業者(NTTドコモ・KDDI/au・ソフトバンク・楽天モバイルなど)との契約はEU法の適用対象外
  • スイス・英国・その他EEA非加盟国のキャリアSIM:前述のとおり適用外
  • 旅行eSIM(多くの場合):EU向けに特化した旅行eSIMプロバイダーは、RLAH規制上の「ホームキャリア」とは異なる立場にある場合が多い

4. 4ヶ月ルールと公正利用ポリシー

RLAHは無条件に適用されるわけではなく、正当な利用(genuine roaming)を前提として設計されている。

4ヶ月ルール(定住判定)

EU/EEAのキャリアは、加入者が以下の状況にあると判断した場合に対応できる:

  • 継続的に4ヶ月以上、自国以外のEU/EEA国に滞在している
  • かつ訪問国での通信量がホーム国での通信量を継続的に上回っている(または契約の主たる利用場所が訪問国になっている)

この場合、キャリアは加入者に対して追加料金の請求や、ローミング利用に関する通知・同意取得の手続きを行うことができる。ただし一方的に追加料金を課すためには事前の通知と合理的な猶予期間が必要であり、プロセスはEUの規制ガイドラインに従う必要がある。

注意点: 4ヶ月は「継続した滞在」の目安であり、合計日数ではない。短期出張・観光の繰り返しでは通常この規定は適用されない。

公正利用ポリシー(FUP)とデータ通信量上限

RLAH適用中のデータ通信量には、公正利用ポリシー(Fair Use Policy)に基づく上限が設けられる場合がある。この上限は以下の計算式で算出される:

基本的な考え方:

  • ホームプランの月額料金(税抜)を、EUが定める卸売ローミング上限単価(1GB当たりの上限)で除した値が「追加料金なしで提供できるローミングデータ量の下限」となる
  • 具体的な上限はホームプランの価格水準と卸売単価に依存するため、プランごとに異なる

実務上の影響:

  • 安価なプランほど公正利用ポリシー上限が低くなる傾向がある
  • 上限を超えた場合、キャリアは卸売上限価格を上回らない範囲で追加料金を請求できる
  • 上限超過前に利用者への通知が義務付けられている

EU 2022/612の施行後、卸売上限価格は段階的に引き下げられており、利用者が受け取れるローミングデータ量は経年的に増加する傾向にある。


5. 日本人渡航者にRLAHは関係するか

これが多くの日本人読者にとって最も重要なポイントである。結論として、日本のキャリアSIMを使って欧州を旅行する日本人は、RLAHの直接的な対象外となる。

なぜ対象外なのか

RLAHはEU法であり、EU/EEAの通信事業者に対する規制である。日本の通信事業者(NTTドコモ・KDDI/au・ソフトバンク・楽天モバイル・各MVNO)はEU法の管轄外にあるため、これらの事業者との契約に基づいてEU/EEA圏内でローミングしても、RLAH規制の恩恵は受けられない。

日本のSIMでEU圏内をローミングする場合に適用されるのは、日本の各キャリアが独自に設定した国際ローミング料金体系である。これは一般的に以下の3種類がある(詳しくは国際ローミングの仕組みと料金を参照):

  • 従量課金型
  • 定額パック型
  • プラン内包型(楽天モバイルの月2GB無料枠など)

例外的に恩恵を受けられるケース

以下のケースでは、日本人であってもRLAHの恩恵を間接的または実質的に享受できる:

  1. EU/EEAのキャリアSIMを別途保有している場合:例えばドイツに留学中でドイツのキャリアSIMを持っている場合は、そのSIMでEU/EEA圏内を旅行する際にRLAHが適用される
  2. EU/EEAのキャリアが発行する旅行者向けSIM・eSIM:EU域内をカバーするプランとしてEU域内のキャリアが提供するものの一部はRLAH対象となることがある(ただし旅行eSIMプロバイダーの多くはRLAHの枠組みとは別の商業モデルで運営している)

6. EU内で使える旅行eSIM・ローミングの選択肢

日本人がEUを旅行する際の実用的な通信手段として、以下の選択肢が現実的である。

選択肢①:日本キャリアの国際ローミング

最も手軽だが費用は相対的に高くなりやすい。日本の電話番号を維持しながらEU各国を移動できる点が利点だ。EU複数国を短期間で周遊する場合でも、ローミング先の各国で個別に設定を変える必要がない。

ただし長期滞在・大容量通信の場合はコストが積み上がりやすい。渡航前に渡航前のスマホ準備チェックリストも確認しておくとよい。

選択肢②:EU複数国対応の旅行eSIM

Airalo・Holafly・Saily・Nomadなどの旅行eSIMプロバイダーが「ヨーロッパ周遊」型のプランを提供している。1枚のeSIMで複数のEU/EEA加盟国をカバーするプランが多く、日本のSIMはそのまま維持しながらeSIMでデータ通信を行うデュアルSIM運用が可能である。

特徴:

  • EU加盟国を周遊する旅程に対応しやすい
  • プロバイダーによって対応国数・速度・データ量が異なる
  • RLAH規制上の「ホームキャリア」ではないが、複数国対応のため旅行用途に適している

旅行eSIMの購入・設定手順は初めての旅行eSIM完全ガイドで解説している。

選択肢③:訪問国ごとの旅行eSIM

特定の1カ国のみを訪問する場合は、その国専用のeSIMが最も割安になることが多い。フランスやドイツなどの主要国は専用eSIMプランの選択肢が豊富である。

選択肢④:現地SIM

長期滞在の場合は訪問国で現地SIMを購入する選択肢もある。EU域内の現地SIMを取得すれば、取得国の契約としてRLAH規制の対象となり、他のEU/EEA国への移動でも追加料金なしで使える可能性がある。ただし現地でのSIM登録には身分証明書(パスポート)の提示が必要な国が多い。

EU圏の旅行eSIM・ローミングプランの料金比較はSimFinderの旅行eSIM検索で確認できる。


7. EU圏外(スイス・英国等)での扱い

スイス

前述のとおり、スイスはEEAに属していないためRLAH規制の対象外である。スイスはフランス・ドイツ・イタリア・オーストリア・リヒテンシュタインに囲まれており、欧州旅行でスイスを経由・滞在するケースは少なくない。

  • EU/EEAのキャリアSIMでスイスに入国した場合は、通常のローミング料金が適用される
  • スイス独自の通信規制(2021年改正電気通信法)は存在するが、EU RLAHとは別の枠組みである
  • リヒテンシュタインはEEA加盟国であり対象国に含まれる点に注意(スイスとは異なる)

英国

Brexit(EU離脱)により、英国は2020年12月31日以降にEU/EEAの管轄から外れている。英国在住者がEU圏内を旅行する際や、EU/EEAのキャリアSIM保有者が英国でローミングする際はRLAHが適用されない。

英国の各キャリア(EE・Vodafone・O2・Three等)は独自のEUローミングポリシーを持っており、無料でEU内ローミングを提供しているキャリアもあれば、追加料金を設けているキャリアもある。英国SIMを保有する場合は各キャリアのWebサイトで最新のポリシーを確認する必要がある。

その他の欧州諸国

トルコ・北マケドニア・セルビア・アルバニアなどの欧州の国々は、EU/EEAに加盟していないためRLAHの対象外である。これらの国を訪問する場合も、日本のSIMと同様に個別の国際ローミング料金または旅行eSIMを利用することになる。


8. EU内データ通信量上限の計算式

EU 2022/612が定める公正利用ポリシー(FUP)上のデータ通信量上限は、以下の仕組みで算出される。

基本算式

Commission Implementing Regulation 2016/2286 Annex I が定める正式な算式は以下のとおりである:

IDV(追加料金なしのローミングデータ量下限、GB)
  ≥ 2 × (ホームプランの月額料金(税抜、ユーロ)÷ 卸売ローミング上限単価(ユーロ/GB))

重要: 実際の保障量は「月額料金 ÷ 卸売単価」の計算値の 2倍以上が下限となる(Commission Implementing Regulation 2016/2286 Annex I: IDV ≥ 2 × (税抜料金 ÷ 卸売単価))。単純な除算ではなく、この2倍係数が適用される点に注意が必要だ。

卸売ローミング上限単価はEU規則により定められており、EU 2022/612施行以降は段階的に引き下げられている。

計算例(概念的な説明)

  • ホームプランが月額10ユーロ・卸売単価が1.30ユーロ/GB(2025年時点)と仮定すると、追加料金なしで提供すべきローミングデータは少なくとも約15.4GB(= 2 × 10 ÷ 1.30)
  • ホームプランが月額5ユーロ(安価なプラン)の場合は約7.7GBとなる
  • すなわち安いプランほどFUP上限が低くなる傾向があるが、卸売単価の引き下げにより年々保障量は増加する

上限を超えた場合

FUP上限を超えてもデータ通信が即座に遮断されるわけではない。超過分については、EUが定める卸売上限単価を上回らない範囲でキャリアが追加料金を請求できる。ただし超過前に利用者への通知が義務付けられている(上限の80%・100%に達した時点での通知が一般的な業界慣行)。

音声・SMSへの適用

データ通信量以外に、音声通話の分・SMSの件数についてもFUP上の制限が設けられる場合があるが、大半のプランでは実用的な範囲内では制限に達しにくい水準に設定されている。


9. 5G/4Gの取扱い

EU 2022/612では、ローミング中の通信品質についても規定が強化された。

品質保証の義務化

EU 2022/612施行後、EU/EEAのキャリアは同等ネットワーク利用時に国内と同等の速度・品質を保証する義務を負う。これは「ローミング時は意図的に通信速度を低下させてはならない」ことを意味する。

具体的には:

  • 訪問先国に4Gネットワークが存在し、かつホームプランが4G対応の場合、ローミング中でも4G速度が保証される
  • 5Gネットワークが訪問先で利用可能であれば、ホームプランの5G対応状況に応じて5G速度の保証も適用されうる
  • ただし訪問先ネットワークの物理的なカバレッジ外であれば、これらの保証は適用されない

旅行eSIMの場合

RLAH規制外の旅行eSIMを使う場合、この品質保証義務は直接適用されない。旅行eSIMのプロバイダーが各訪問国でどのネットワークを使用し、どの通信速度を提供するかはプロバイダーごとの契約・仕様による。購入前にプロバイダーのWebサイトで各国のカバレッジ・対応ネットワーク(4G/5G)を確認することを推奨する。


FAQ

Q. EUのキャリアSIMを持っている場合、EU域内を移動するたびに設定変更が必要ですか? 通常は必要ありません。RLAH規制により、EU/EEA域内では自動的にローミングされ、ホームと同じ料金水準が適用されます。ただし端末側でローミングが有効化されていることを確認してください。

Q. EU留学中の日本人はRLAHを活用できますか? 留学中にEU/EEAのキャリアSIMを契約すれば、そのSIMについてはRLAH規制が適用されます。日本のSIMについては引き続きRLAHの対象外です。4ヶ月以上在住する場合は「定住者」とみなされ、RLAH規制の適用方法がホームキャリアの判断に依存する場合があります。

Q. EU圏内での緊急電話はローミング中でも無料ですか? はい。EU 2022/612において、EU/EEAのキャリア加入者は圏内のどの国でも「112」などの欧州統一緊急番号への発信が無料で保障されています。日本のキャリアSIMを使う場合も、現地の緊急サービス(119や110に相当する番号)にはローミング中であっても通常接続できますが、料金発生の有無はキャリアによって異なります。

Q. RLAHはSMSにも適用されますか? はい。EU/EEAのキャリアSIMを持つ加入者のEU/EEA域内ローミング中のSMS送受信にもRLAHが適用されます。国際SMS(EU/EEA域外への送信)はRLAHの対象外となります。

Q. リヒテンシュタインはEUのRLAHに含まれますか? はい。リヒテンシュタインはEEA加盟国であり、RLAH対象の32カ国に含まれます。隣国スイスはEEA非加盟のため対象外である点と混同しないよう注意が必要です。


まとめ / 関連ガイド

RLAH(Roam Like at Home)規制は、EU/EEAの加入者がEU/EEA圏内をローミングする際の追加料金を原則禁止する制度であり、2017年6月15日施行・EU 2022/612により2032年6月30日まで延長されている。対象は32カ国(EU27カ国 + アイスランド・ノルウェー・リヒテンシュタイン + 2026年1月1日よりウクライナ・モルドバ)であり、スイス・英国・モナコ・バチカンは対象外だ。

日本人渡航者にとっての実務上のポイントは以下のとおりである:

  1. 日本のキャリアSIMはRLAHの対象外——国際ローミング料金または旅行eSIMで対応する
  2. スイスを含む旅程では注意——EU/EEAのキャリアSIMでもスイスは対象外
  3. EU向け旅行eSIMが最も手軽な代替手段——複数国対応プランが豊富
  4. EU滞在が4ヶ月を超える場合——定住判定の可能性を把握しておく

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