5Gと聞いて「速い」というイメージはあっても、なぜ場所によって速度がまったく異なるのか、疑問に思ったことはないだろうか。その答えの多くは「どの周波数帯(バンド)を使っているか」に行き着く。
5G NRには大きく2種類の周波数帯区分がある。6 GHz以下のSub-6(FR1)と、24 GHz以上のミリ波(FR2)だ。この2つは速度・到達距離・屋内外の特性が根本的に異なり、それぞれの特性を知ることで自分に合った端末選びとエリア判断ができるようになる。
この記事では、3GPPが定めるFR1/FR2の定義からバンド命名規則、Sub-6とミリ波の性能トレードオフ、屋内外特性の違い、対応端末の確認方法まで、技術仕様に基づいて整理する。
1. 5G NRの周波数範囲区分:FR1とFR2
3GPP(3rd Generation Partnership Project)は5G NR(New Radio)の周波数範囲をFR1とFR2の2つに区分している。仕様は3GPP TS 38.101(NR; User Equipment (UE) radio transmission and reception)に定義されている。
| 区分 | 名称 | 周波数範囲 | 通称 |
|---|---|---|---|
| FR1 | Frequency Range 1 | 410 MHz〜7125 MHz | Sub-6 GHz(サブ6) |
| FR2 | Frequency Range 2 | 24250 MHz〜52600 MHz | ミリ波(mmWave) |
FR1の上限が「7125 MHz」となっているのは、6 GHz帯(いわゆる「Sub-7 GHz」とも呼ばれる上限付近)まで含めているためだ。通称として「Sub-6」が定着しているが、厳密にはFR1は7.125 GHzまでを含む。
FR2の周波数は24.25 GHz〜52.6 GHzであり、波長がミリメートル単位(約5〜12 mm)になることから「ミリ波(millimeter wave、mmWave)」と呼ばれる。
5Gには現在この2つのFR区分が存在するが、将来的には7.125 GHz〜24.25 GHzの「FR3」についても研究が進んでいる(3GPP Release 19以降で研究段階)。本記事では商用展開済みのFR1・FR2を対象とする。
2. 5G NRバンドの命名規則
LTE(4G)が「Band 1」「Band 3」のように番号で表記するのに対し、5G NRのバンドには**「n」のプレフィックス**が付く。これは3GPP TS 38.101で定められた命名規則だ。
FR1(Sub-6)の主要バンド
FR1のバンドはn1〜n100番台に割り当てられている。代表的なバンドを示す。
| バンド | 周波数帯 | 複信方式 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| n1 | 2100 MHz | FDD | LTE Band 1と同じ周波数帯(4G/5G共用化が進む) |
| n3 | 1700 MHz | FDD | 都市部の容量拡大 |
| n28 | 700 MHz | FDD | 広域カバー(APT700バンド) |
| n77 | 3300〜4200 MHz | TDD | 5G主力バンド(広域) |
| n78 | 3300〜3800 MHz | TDD | n77のサブセット・5G主力バンド |
| n79 | 4400〜5000 MHz | TDD | 高容量エリア |
n77とn78はいずれも3.5〜4 GHz帯(通称「Cバンド」または「3.5 GHzバンド」)であり、多くの国で5G主力帯域として商用展開されている。
FR2(ミリ波)の主要バンド
FR2のバンドはn257〜n261に割り当てられている。FR1とは番号が大きく離れており、一目でミリ波バンドとわかる体系だ。
| バンド | 周波数帯 | 複信方式 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| n257 | 26500〜29500 MHz(28 GHz帯) | TDD | 日本・欧州・韓国等 |
| n258 | 24250〜27500 MHz(24 GHz帯) | TDD | 欧州・米国等 |
| n260 | 37000〜40000 MHz(39 GHz帯) | TDD | 米国主体 |
| n261 | 27500〜28350 MHz(28 GHz帯) | TDD | 米国・日本等 |
日本のキャリアはミリ波帯として**n257(28 GHz帯)**を主に使用している。総務省は2019年に大手4キャリアへミリ波(28 GHz帯)の5G用周波数を割り当てた。
複信方式について補足すると、FDD(Frequency Division Duplex:周波数分割複信)は上り・下りで異なる周波数帯を使い、TDD(Time Division Duplex:時分割複信)は同じ周波数帯を時間で分割して上り・下りに使う。ミリ波はすべてTDD方式で運用される。
LTE(4G)と5G NRのバンド番号の詳細な対応関係や日本のキャリア別バンド一覧は、周波数帯(バンド)と端末互換性 — LTE・5Gバンド番号の見方と確認方法でも整理している。
3. Sub-6(FR1)の特性:広域カバーと安定性
Sub-6 GHzの電波は、周波数が低いほど到達距離が長くなり、障害物を回り込む性質(回折性)が高いという物理的特性を持つ。
到達距離と基地局密度
n77/n78(3.5 GHz帯)を例にとると、1つの基地局がカバーできる半径はおおよそ数百メートルから1〜2 km程度(地形・建物密度により異なる)であり、LTEと同等か、Sub-6帯域の周波数がLTEより高い場合はやや狭くなる。
ただし700 MHz帯(n28)のような低周波数のSub-6バンドは、LTEプラチナバンドと同等の広域カバー特性を持ち、地方・山間部・建物内でのカバレッジを担う。
屋内・屋外特性
Sub-6 GHzの電波は鉄筋コンクリートの壁や建物ガラスへの浸透力があり、屋内でも一定の接続性が期待できる。屋外から屋内への「建物透過損失」は周波数が高くなるほど増加するため、3.5 GHz帯のn77/n78はLTEの2.1 GHz帯(n1)と比べると屋内浸透は若干低下するが、ミリ波と比較すれば大幅に優れている。
速度の特性
Sub-6の速度は使用する帯域幅に依存する。5G NRでは最大100 MHz幅の帯域を1バンドで使用でき、4G LTE(通常10〜20 MHz幅)より広い帯域を確保しやすいため、理論上のピーク速度はLTEより高い。ただし実際の通信速度は、エリア内の同時接続ユーザー数・基地局との距離・端末性能など多くの要因に左右されるため、記事上での具体的な速度値の断定は行わない。
4. ミリ波(FR2)の特性:超高速と極短距離
ミリ波は5G NRの中で最も高速な通信を実現できる周波数帯だが、その物理特性から展開シナリオが大きく限定される。
超広帯域による高速性
ミリ波の最大の特徴は、利用できる帯域幅の広さだ。FR2では1バンドあたり最大400 MHzの帯域幅を使用でき、さらにキャリアアグリゲーションで束ねることで理論上数Gbpsの下り速度を実現できる。これは数十〜数百人が同時に超高解像度動画をストリーミングしたり、大量IoTデバイスが同時接続したりするシナリオで有効だ。
到達距離の短さ
ミリ波は波長が短く、大気中での減衰(自由空間損失)がSub-6より大幅に大きい。1つのミリ波基地局がカバーできる半径は一般的に数十メートルから数百メートル程度とされており、Sub-6と比べて桁違いに狭い。
障害物への脆弱性
ミリ波の直進性は強く、障害物によって著しく減衰する。
- 建物の壁: 鉄筋コンクリートや金属フレームの建物内にはほぼ到達しない
- 雨・霧: 降雨による減衰(雨減衰)がSub-6より顕著に大きい
- 植物: 葉や木の枝でも数dB〜十数dBの減衰が発生する
- 人体: 端末を手で握るだけで指向性アンテナの利得が低下する場合がある
この特性のため、ミリ波は屋外の見通し線(Line of Sight: LoS)が確保できる特定エリアに限定的に展開される。
主要な展開シナリオ
| 場所 | 理由 |
|---|---|
| 大型スタジアム・アリーナ | 多数の観客が狭いエリアに集中するため帯域需要が極めて高い |
| 鉄道駅・空港の待合エリア | 見通し距離が確保でき、利用者が密集する |
| 大型ショッピングモール内 | 屋内展開(ミリ波は屋内での専用設備が必要) |
| 展示会・イベント会場 | 一時的な超高密度接続需要 |
こうした場所ではミリ波基地局を天井や柱に近距離で多数設置することで面的なカバレッジを形成する。街中の屋外や一般の屋内建物ではSub-6が主役であり、ミリ波はあくまで特定の高密度スポットを補完する位置づけだ。
5. Sub-6とミリ波のトレードオフ比較
2つの周波数帯の特性を横並びで比較すると、それぞれが異なるニーズを担っていることが明確になる。
| 比較軸 | Sub-6(FR1) | ミリ波(FR2) |
|---|---|---|
| 周波数範囲 | 410 MHz〜7125 MHz | 24250 MHz〜52600 MHz |
| 代表バンド(日本) | n77、n78、n79、n28 | n257(28 GHz帯) |
| 到達距離 | 数百m〜数km | 数十m〜数百m |
| 障害物透過 | 良好〜中程度 | 非常に弱い |
| 屋内利用 | 可能(減衰あり) | 困難(専用設備が必要) |
| 雨天時 | ほぼ影響なし | 減衰が顕著 |
| 利用可能帯域幅 | 最大100 MHz/バンド | 最大400 MHz/バンド |
| 主な展開形態 | 広域カバー・一般利用 | 超高密度スポットカバー |
この表は物理特性の整理であり、実際の通信速度は環境・キャリア設備・端末性能により大幅に異なる。
6. 日本における5Gバンドの展開状況
日本のキャリア(NTTドコモ・KDDI/au・SoftBank・楽天モバイル)は、総務省による5G周波数割当てに基づいてSub-6とミリ波の両方を保有している。
主要なSub-6帯域割当ては以下の通りだ(3.5 GHz帯・4.5 GHz帯)。
| キャリア | Sub-6主要バンド | ミリ波バンド |
|---|---|---|
| NTTドコモ | n78(3.4/3.5 GHz帯)、n79(4.5 GHz) | n257(28 GHz) |
| KDDI(au) | n77(3.7 GHz帯)、n78(3.4/3.5 GHz帯) | n257(28 GHz) |
| SoftBank | n77(3.7 GHz帯) | n257(28 GHz) |
| 楽天モバイル | n77(3.7 GHz帯) | n257(28 GHz) |
2026年時点の日本の5Gエリアは、実用上のカバレッジのほぼすべてをSub-6帯が担っている。ミリ波は主要都市の特定スポット(駅・スタジアム・商業施設等)で展開されているが、一般的な街中・住宅地・地方部ではSub-6のみが対象だ。
5Gサービスの展開形態には2種類ある。現在普及しているのは**NSA(Non-Standalone)構成で、5G NR無線をLTE(4G)コアネットワーク上で動作させる。将来的に普及が期待されるSA(Standalone)**は5G専用コアネットワーク(5GC)を使い、5G本来の低遅延・ネットワークスライシングを実現する。SA構成はVoNRの前提にもなる(詳しくはVoLTEとVoNRとは — 4G/5Gで通話する仕組みと対応端末を参照)。
MNO(大手キャリア)とMVNO(格安SIM)の5G提供の違いについては、MNO(大手キャリア)とは — MVNO・サブブランドとの違いで解説している。
7. 対応端末の確認方法
5Gに対応しているかどうか、またSub-6のみかミリ波にも対応しているかを確認するには、以下の手順を踏む。
メーカー公式スペックページを確認する
端末の5G NR対応バンドはメーカー公式サイトの仕様ページ(Specifications / Tech Specs)に記載されている。確認のポイントは3つだ。
1. 端末のリージョンモデルを特定する 同じ製品名でも販売地域によって対応バンドが異なる場合がある。日本向けモデルか、北米向け・欧州向けモデルかを特定したうえで仕様を確認する。例えばiPhoneはモデル番号(A2や型番の末尾)によってリージョンを識別できる。
2. 「5G NR」欄のバンドリストを確認する 仕様ページに「5G NR Sub-6 GHz」と「5G NR mmWave」が別欄で記載されていることが多い。mmWave欄があれば(例:n257、n260等)ミリ波対応端末だ。日本で購入できる端末でミリ波に対応しているのは一部の高性能モデルに限られる。
3. 使用キャリアのバンドが含まれているか照合する 自分が使うキャリアのSub-6主力バンド(例:ドコモならn78/n79、auならn77/n78)が端末の対応バンドリストにあるかを確認する。
MVNOで5Gを使う場合の注意
MVNO(格安SIM)が5Gサービスを提供しているかどうか、また5G接続に必要なSIM設定(APN等)が対応しているかを事前に確認する必要がある。MVNOは元のMNO回線を利用しているため、5G対応自体はMNO次第だが、MVNOとしての5G提供状況はMVNOごとに異なる。
SIMフリー端末を別キャリアで使う際の全般的な注意については、SIMロックとは — 解除方法と注意点を参照してほしい。
海外旅行時に5G接続を期待する場合も、現地キャリアが提供するバンドと端末のバンド対応を照合する必要がある。詳しくは国際ローミングの仕組みと料金 — 海外でキャリアSIMを使う方式を参照。
8. 5G対応SIMや端末を選ぶ際の考え方
5G対応かどうかは、利用目的と使う場所によって重要度が変わる。
都市部・主要エリアが中心の場合: Sub-6(n77/n78/n79)対応端末であれば、日本国内の主要都市の屋外では5G接続が期待できる。ミリ波対応は必須ではない。
地方・山間部・屋内が多い場合: 5G NRの対応バンドよりも、LTEのプラチナバンド(Band 19/18/8/28)対応が通信安定性に直結することが多い。現状の5G Sub-6(3.5〜4.5 GHz帯)は低周波のLTEバンドより広域カバー性が低いため、5G接続できない場面ではLTE接続が主役になる。
海外旅行・ローミング: 旅行先の国・キャリアが使う5Gバンドは日本と異なる場合がある。特にミリ波バンドは国によって使用バンド(n257/n258/n260/n261)が異なる。旅行eSIMを選ぶ場合も、対応バンドとエリアを事前に確認することが有益だ。
どのプランや端末が自分の用途に合うかは条件によって大きく異なる。自分に合ったSIMの選び方 — 用途別チェックリストでは具体的な選び方の観点を整理している。
FAQ
Sub-6とミリ波はどう違いますか?
Sub-6(FR1)は6 GHz以下の周波数帯で、到達距離が長く障害物を回り込みやすいため広いエリアをカバーできます。ミリ波(FR2)は24 GHz以上の高周波帯で、非常に広い帯域幅により超高速・大容量通信が可能ですが、到達距離が短く建物・雨・植物によって大幅に減衰します。日本の5Gエリアは現状ほぼSub-6で構成されています。
FR1とFR2とは何ですか?
3GPP TS 38.101が定める5G NRの周波数範囲区分です。FR1(Frequency Range 1)は410 MHz〜7125 MHzのSub-6 GHz帯、FR2(Frequency Range 2)は24250 MHz〜52600 MHzのミリ波帯を指します。5G NRバンドはFR1はn1〜n100番台、FR2はn257〜n261のように番号が割り当てられています。
5G対応端末かどうかはどこで確認できますか?
メーカー公式サイトの仕様ページ(Specifications / Tech Specs)の「5G NR」欄を確認してください。iPhoneはApple公式、PixelはGoogle公式の仕様ページに対応バンドが列挙されています。Sub-6対応かミリ波対応かも記載されているため、購入地域のモデル番号を特定したうえで確認するのが確実です。
ミリ波対応端末でないと5Gは使えませんか?
Sub-6(FR1)対応であれば5G NRネットワークに接続できます。ミリ波(FR2)は対応端末かつミリ波対応エリアでのみ利用可能で、一般の街中や屋内では通常Sub-6が使われます。日本ではミリ波対応端末は一部の高性能スマートフォンに限られており、ミリ波サービスエリアも特定のスポットに限定されています。
5GのSub-6(n77/n78)とLTE(Band 3/Band 1)は何が違いますか?
周波数帯と使用する通信規格が異なります。LTE Band 3(1.7 GHz)やBand 1(2.1 GHz)はLTE(4G)規格のバンドで、3GPP TS 36.101で規定されています。5G NR n77(3.3〜4.2 GHz)やn78(3.3〜3.8 GHz)は5G NR規格のバンドで、3GPP TS 38.101で規定されています。5G NRは広い帯域幅と新しい変調方式(最大256QAM等)、ビームフォーミング技術により、同じ周波数利用効率でもより高い通信速度と大容量通信を実現します。
まとめ
- **FR1(Sub-6 GHz)**は410 MHz〜7125 MHzの広域カバー向け帯域。n77(3.3〜4.2 GHz)・n78(3.3〜3.8 GHz)・n79(4.4〜5 GHz)が日本の5G主力バンド。障害物への強さと到達距離に優れる。
- **FR2(ミリ波)**は24250 MHz〜52600 MHzの超高速・大容量向け帯域。日本はn257(28 GHz)を使用。超広帯域で数Gbps級が可能だが、到達距離・屋内浸透・降雨減衰の制約から特定スポットへの展開に限られる。
- 3GPP NRバンド命名はプレフィックス「n」で識別。FR1はn1〜n100番台、FR2はn257〜n261が割り当てられている。
- 日本の現状はSub-6が実用カバレッジのほぼすべてを担い、ミリ波は主要都市の特定スポットのみ。
- 端末選びの基本はメーカー公式スペックページで「5G NR」対応バンドを確認し、利用キャリアの主力バンドとの照合を行うこと。
通信規格に関連する用語を体系的に確認したい場合は通信用語集 — SIM・eSIM・MNO/MVNOの基礎用語を参照してほしい。